急性膵炎について

急性膵炎とは、種々の原因により膵臓自体の防御機構が破壊されて、膵酵素が膵臓の細胞周囲の組織に漏れ出して膵臓の自己消化を起こし、膵実質の破壊、脂肪壊死、膵出血などをきたす疾患です。

急性膵炎の原因
胆石やアルコールの過飲が原因となることが多いです。
アルコール:一般には長期にわたるアルコール多飲による慢性膵炎の急性増悪が要因とされていますが、中には1~2回の多飲によって発症することがあります。

アルコールによる発症の機序としては
1.アルコールが膵液の過剰分泌を起こし、膵管内圧が上昇し障害が起こる。
2.アルコールの長期摂取により膵液の性状が変化し、蛋白栓が形成され、小膵管が閉塞して
  組織障害が起こる。
3.アルコールが膵組織に対し直接傷害する。

胆道系疾患:胆石症が一般的です。胆嚢から流れ出た胆石が胆管の十二指腸開口部に嵌頓し、胆汁や膵液の流れを止めると、膵液が膵臓内に溜まり膵臓の組織を自己消化したり、胆汁が膵管に逆流して膵に障害がおこります。その他乳頭狭窄や総胆管嚢腫なども考えられます。

高脂血症:高濃度のトリグリセリドが分解して生じた大量の遊離脂肪酸による細胞障害のため膵炎を起こします。

その他:内視鏡的胆道膵管造影検査の後や、膵近傍の手術後、外傷、薬剤性(ステロイド、降圧薬、抗生剤など多くの薬剤が挙げられる)、感染性、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進症、特発性など。

病態
膵臓の自己消化によって活性化されたトリプシン、キモトリプシンなどの蛋白分解酵素が他のホスホリパーゼやキニン系酵素を活性化し、これらの活性化酵素やそれによる分解産物によって全身多臓器および循環障害を惹起して多臓器不全(ショック、腎障害、呼吸障害、肝障害、播種性血管内凝固、心筋障害、脳障害)をきたします。

症状
腹痛:上腹部の痛みが典型的ですが、背中の痛みや腰の痛み、腹部全体の痛みを来すこともあります。

悪心・嘔吐:膵臓の炎症が腹部全体に及んで、腸管麻痺が起こり、腸閉塞のような状態になるため、吐き気や嘔吐が起こります。

呼吸不全:高度の低酸素血症を呈することがあします。痛みによる呼吸運動抑制、胸水、無気肺、横隔膜挙上などが原因とされています。

循環障害:炎症膵およびその周囲への体液の滲出による循環血漿量の減少だけでなく、血中へ逸脱した血管作動物質の関与で、ショック状態を起こすことがあります。

腎不全:10~20%程度に見られます。

その他:中等度以上の急性膵炎では、腹水、胸水、黄疸、頻脈、播種性血管内凝固症候群、意識障害なども起こることがあります。重症の急性膵炎では、痛みや吐き気、嘔吐ともに、ショック症状が起こることがあります。腎臓や肺、肝臓などの複数の臓器に同時に、あるいは次々に障害が生じ、それに加えて出血が止まらなくなったり、意識がなくなったりする多臓器不全が起こるのが特徴です。感染症が加わった場合は、発熱など敗血症の症状が出てきます。この重症急性膵炎は、死亡率が30%に及ぶという危険なものなので、緊急の治療が必要です。

検査
1) 血液検査・尿検査:膵臓の消化酵素であるアミラーゼ(血・尿)やトリプシン、リパーゼ、エラスターゼ1などが上昇します。白血球増多や貧血も認めます。その他、胆石や膵腫大による胆汁うっ滞のため、AST、ALT、ビリルビンなどの高値。血糖値、中性脂肪の高値を認めることもあります。重症例ではカルシウム値が低下します。
2) 画像検査:超音波検査・CTなど画像診断が行われます。原因疾患としての胆石症の有無も判断できます。膵臓の腫大、輪郭の消失、周囲の液体貯留などを認めます。

治療
急性膵炎では、内科的治療が基本になります。痛みの軽減、循環・呼吸状態の管理などの対症療法、膵臓の庇護、有害物質の除去などを考慮して行います。また状況によっては膵臓の部分切除したり壊死組織を取り除いたり、胆嚢摘出など、外科的治療が行われることもあります。

絶飲・絶食:食物をとると消化酵素の分泌を促進するため、絶食にします。また、腹部全体に炎症が広がり、腸の動きが悪くなるため、水を飲むことを禁止されます。

疼痛の除去:苦痛、不安などにより全身消耗を来たし、痛み自体が膵外分泌を刺激したり、循環不全に拍車をかける要因となるので、できるだけ速やかに対応します。

膵酵素阻害薬:膵酵素が血中に出ると、それを引き金に呼吸不全や腎不全などの合併症を引き起こす恐れがあるため、膵酵素や種々の有害物の働きを抑える膵酵素阻害薬が使用されます。

抗生物質:膵臓に炎症が起こると、膵臓の組織や膿瘍部分に細菌感染が起こりやすくなるため抗生物質を使用します。死因の約80%に二次感染の関与がみられるため感染症を防ぐことが重要です。

特殊療法:有害物質を取り除く目的で血漿交換、腹膜還流、人工透析を行います。また、重症例には膵に直接膵酵素阻害薬や抗生物質を動注することもあります。外科的治療:膵切除術、壊死部切除術、腹腔内ドレナージなど。

原因を取り除く :
1. アルコールが原因の場合禁酒する。
2. 胆石が原因の場合は、胆嚢、総胆管を調べ、場合によっては、胆嚢摘出術や内視鏡的採
  石術を行う。
3. 高脂血症が原因の場合は、その治療を行う。

予後
軽度の急性膵炎ではその予後は良好ですが、重症急性膵炎では依然としてその死亡率は高く、約30%と高率です。重症急性膵炎後に膵外分泌機能障害、耐糖能異常、膵管像の異常が多く、アルコール性にその頻度が高いと言われています。