胃・十二指腸潰瘍について

◆胃・十二指腸潰瘍とは
 壊死(組織の細胞がまとまって死んでしまうこと)に基づく、粘膜や皮膚の一定の深さの組織の欠損を潰瘍と言う。消化管の場合は欠損が粘膜を貫いて粘膜下層に達するものを潰瘍と言う。さらに、胃酸の影響を受けて胃や十二指腸の粘膜に潰瘍を形成するものを、消化性潰瘍と呼ぶ。欠損が粘膜内にとどまっている場合は、びらんと言う。

◆胃・十二指腸潰瘍の経過(ステージ)
A1 : 発生直後の潰瘍、周辺粘膜の浮腫と潰瘍底の汚れた白苔を認める。
A2 : 発生後間もない潰瘍、潰瘍底の白苔は純白、辺縁には発赤を少量認める。
H1 : 治癒の始まった潰瘍、周囲の粘膜襞の集中、辺縁の赤色の再生上皮の増加。
H2 : 治癒の進んだ潰瘍、潰瘍面積は著しく縮小し、周囲は再生上皮に覆われる。
S1 : 赤色瘢痕、潰瘍は閉じて治癒し、赤色の再生上皮が瘢痕を覆う。
S2 : 白色瘢痕、潰瘍瘢痕にはわずかの再生上皮しか認めない。
  A1 → A2 → H1 → H2 → S1 → S2 の順に治癒していく。
  悪化する時はA2~S2の全てのステージからA1になりうる。S1→A1など。
  一般にS2(白色瘢痕)よりもS1(赤色瘢痕)の方が再発しやすい。


◆胃・十二指腸潰瘍の病態生理
 胃の攻撃因子(胃酸、ペプシンなど)の亢進と防御因子(粘液、重炭酸塩など)の低下により発症する。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染と、ある種の自律神経異常があると発生しやすい。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染により胃粘膜に様々な化学的変化が起こり、防御因子が低下する。また、副交感神経活動が亢進すると胃酸の分泌が増加して攻撃因子が亢進し、交感神経活動が亢進すると胃の血管壁が収縮して血流が低下し、防御因子が低下する。消化性潰瘍を慢性的に繰り返す患者のほとんどは、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染とこれらの自律神経活動の異常を有している。また、消炎鎮痛剤の副作用で胃・十二指腸潰瘍が起こりやすいことも知られている。

◆胃・十二指腸潰瘍の症状
 心窩部痛(みぞうちの痛み)、嘔気、嘔吐、腹部膨満感、食欲低下、背部痛などの症状が多い。また、胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では食前に痛むことが多い。潰瘍が大きな血管に達して出血すると黒色便、貧血、吐血などとなり、重症例では頻脈、冷や汗、血圧低下、意識障害などのショック症状が出現し、生命が危険となることもある。潰瘍が深くなって穿孔(消化管の壁に穴が開くこと)すると腹膜炎を起こして激痛を生じ、救命のために緊急手術を要する。慢性的に繰り返した場合は狭窄がおこり、食物の通過障害となることもある。

◆検査と診断
 内視鏡検査で確実に診断されるが、癌との鑑別のために組織検査が必要なこともある。バリウムによるX線造影検査ではニッシェ、フレックなどの所見が認められるが、これのみでは癌との鑑別が困難なことも多い。潰瘍瘢痕の所見としては襞壁集中、胃角変形などがある。



◆胃・十二指腸潰瘍の治療
◇薬物療法:胃酸分泌抑制薬(PPI、H2-blocker)の内服が主体で、防御因子製剤、消化管運動賦活剤などを併用する。再発を繰り返す場合や重症例ではヘリコバクター・ピロリ菌の除菌
も行われている。

◇内視鏡的治療:出血性胃潰瘍、出血性十二指腸潰瘍にはクリッピング、無水エタノール局所注入、電気的焼灼、止血剤散布などの内視鏡的止血術が行われる。また、狭窄に対しては内視鏡的バルーン拡張術も可能である。

◇外科治療:穿孔例および内視鏡的治療で不十分な場合には、外科的手術が必要となることがある。また、内視鏡的治療の合併症で穿孔が生じた場合も緊急手術を要する。

◇生活指導:消化の良い食事、規則正しい生活、禁煙、ストレスの回避など。

◆胃・十二指腸潰瘍の経過と予後
 多くは薬物療法で、数週間で治癒瘢痕化する。しかし治癒後、放置すると再発する症例も多い。このため、治癒後の内服薬による維持療法や、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌が行われる。