「血液サラサラ」

 最近、「血液サラサラ」という言葉をよく耳にします。「このサプリメントはどろどろの血液をサラサラにします」「この食べ物は血液をサラサラにします」などという宣伝文句は巷にあふれています。診察のなかでも「血管がつまり、その先の脳に栄養が行きにくくなった脳梗塞ですから血液を固まりにくくするお薬を出しましょう」というと間髪をいれず患者さんから「ああ、血液をサラサラにする薬ですね」という言葉が返ってきます。それくらい市民権を得た言葉となっています。この市民権獲得の大きな原動力はテレビなどで放映されているシリコンでつくった細い溝に血液を流し、顕微鏡で拡大して赤血球の動きを見る画像です。 この装置は確かに血液の流れの一部分を比較的簡単に画像化した功績は大きいでしょう。でも血液サラサラ画像と血液の凝固されにくいことや詰まりにくいこと(血栓・梗塞ができにくいこと)と一致するのでしょうか?

 ここに大きい問題があります。血液の凝固は主に血液のなかの凝固に関与する因子(血小板、フィブリノーゲン、など多数の成分があります)で決まります。サラサラ画像は主に赤血球の変形能(形を変える能力)と粘調度(粘り気)を見ているに過ぎません。この変形能は赤血球が形をかえて細い流路を通り抜けていく能力です。 粘調度は血液の粘り度ですがこれはストレスや血中の水分、血糖、脂肪の多少などで変化します。血栓形成にはこの赤血球の変形能より凝固因子や血管の壁の関与が圧倒的に大切です。顕微鏡下で血球の流れの状態をみるためには、血液を生理食塩水などで十分に希釈しなければなりません。ところが血液を希釈すると血液成分間の相互作用は弱まり、本来の体内での状態を反映しないことになります。根本的なことを念頭においてサラサラ画像を解釈しなければなりません。つまりサラサラ画像は大切な血管壁の状況は無視、凝固因子に関してもほとんど無視しています。ですからサラサラ画像であなたの血液がサラサラ流れていても、「血管がつまらない、脳梗塞や心筋梗塞にならないんだ」とは言えません。この点を忘れないでサラサラ画像を見てくださいね。