患者さんに「キレート療法は効くんですか?」と質問されれました。私は有毒物質が体内に入ったときにキレート剤を使用して治療することぐらいしかわかりません。水銀中毒や鉛中毒のときにEDTAというキレート剤を用いて治療します。恥ずかしいことにキレート療法という民間療法があるとは知りませんでした。早速、医局員にも聞きましたが詳しく知っている医師はいませんでした。 医学書をひもといても出てきません。
ならば、インターネットで検索をすると出てくるわ、出てくるわ、こんなに流行している民間療法とは知りませんでした。キレートChelationの「Chele」は、ギリシャ語で「爪でつかむ」という意味です。この民間療法で用いるキレート剤とはある物質と結合する手を2箇所(カニのはさみのように)もっている物質をいいます。この両手で体内の有害物質をつかんで体外に排泄するわけです。
ダイエットや禁煙はもちろん、心臓病や動脈硬化、糖尿病、認知症、自閉症など多数の疾患に有効と宣伝されています。しかしキレート療法をする前の有害物質の確認ができていません。 キレート療法を受けた人と受けない人との成績の差の確認もできていません。
この療法の有効性を主張する論文は患者さんや医師の有効だったという証言と主観的な報告が主で、科学的な方法で検討された成績は一つもありません。アメリカの学会を始め権威ある学会では有用性を否定するコメントを出しています。米国のMMWR誌(Morbidity and Mortality Weekly Report)の2006年2月(55:204-207)で、2005年ニューヨークで起きた2人の小児が鉛の排泄のためのキレート療法を受け心配停止で死亡した事件が紹介されています。米国FDA(食品医薬品局)、CDCP(米国疾病予防管理センター)はキレート剤の中には低カルシウム血症や致命的なけいれんを引き起こすこともあるため、これらの薬剤を使用することは危険である報告しています。 もっともこのような副作用は稀でしょうが、現時点では医師の立場からは積極的にすすめる治療法ではなさそうです。